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広島地方裁判所 昭和44年(ワ)1327号 判決 1972年9月13日

原告

高橋由美

ほか二名

被告

赤木建志

ほか三名

主文

一  被告赤木建志、被告株式会社定森モーター、被告広島日産自動車株式会社は各自原告高崎由美に対し金五三万五七〇〇円およびこれに対する昭和四四年四月六日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告赤木建志、被告株式会社定森モーター、被告広島日産自動車株式会社は各自原告高崎登に対し金二九〇万五九九八円およびこれに対する昭和四四年四月六日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告高崎由美、原告高崎登の右被告三名に対するその余の請求並びに被告坂本半十郎に対する全部の請求を棄却する。

四  原告高崎美佐江の請求を棄却する。

五  訴訟費用のうち、原告高崎由美、原告高崎登と被告赤木建志、被告株式会社定森モーター、被告広島日産自動車株式会社相互の間に生じた分は各二分し、各一を原告、各一を被告の負担とし、原告高崎由美、原告高崎登と被告坂本半十郎との間に生じた分は右原告両名の負担とし、原告高崎美佐江と被告全員との間に生じた分はすべて原告高崎美佐江の負担とする。

六  本判決は原告高崎由美、原告高崎登の勝訴部分に限りかりに執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は

一  被告らは各自原告高橋由美に対し八〇万円およびこれに対する昭和四四年四月六日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自原告高崎登に対し四九五万円およびこれに対する昭和四四年四月六日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは各自原告高崎美佐江に対し四〇万円およびこれに対する昭和四四年四月六日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

請求の原因として次のとおり述べた。

一  原告由美は原告登と原告美佐江間の長女である。

昭和四四年四月五日午前〇時一五分頃、原告登は同由美を連れて広島市天満町広島西郵便局前路上の横断歩道を横断中、二人共被告赤木建志運転の普通乘用自動車(加害車という。)にはねられ、よつて原告由美は腰臀部外傷、恥骨々折、外陰部挫傷等の傷害を、原告登は頭部、左上肢、腰部、左大腿膝足関節外傷、顔面挫創及掻過傷、左橈骨々折、左大腿骨亀裂骨折、脳震盪等の傷害を受けた。

二  右は被告赤木の前方不注視および横断歩道前一時停止義務違反に基づくものであるから、同人は民法七〇九条に則り右事故により原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

三  ところで、被告坂本は加害車をトヨタパブリカ広島株式会社から買受け所有し、その旨自動車登録令による所有権保存登録をなし、また自賠責保険を締結保有していたが、被告広島日産から新車購入のため下取りに提供し、同被告に移転登録未済の間に、同被告は第三者への販売をそのサブデイーラーである被告定森モーターに委託し、加害車を寄託中、同被告は被告赤木に加害車の購入方を勧誘し、同被告において二日間借受け試運転中前記事故を惹起したものである。そして、右事故の直後被告広島日産に移転登録された。

以上の次第で、事故当時、被告坂本、同広島日産、同定森モーターが加害車を共同保有する関係にあつたものであるから、右被告三名は各自、自賠法三条、民法七一九条により原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

四  原告由美の損害

(一)  同原告は右事故により直ちに広島市福島病院に入院し、昭和四四年四月一一日まで治療を受け、同日広島市石川病院に転院して五月一四日退院し、合せて五一日間入院し、その後同年六月二八日まで三五日間通院治療を受けた。

しかしながら、左股関節に頑固な疼痛があり、歩行時左下肢がびつこをするほか、恥骨々折と左股関節部の疼痛による骨盤の骨および股関節部位の変形のため、骨盤諸臓器の鬱血と血行障害を起し、卵巣の発育不全と機能の障害を始めとする骨盤諸臓器の萎縮と発育の障害を起す可能性があり、さらに、恥骨々折による骨盤骨の変形跛行が残れば、骨産道の変形を起し、そのため将来分娩障害を起こす可能性があり、将来結婚するのもおぼつかなく、生涯を通じ非常に不安な状況にある。

(二)  右傷害治療のため必要とした費用は、治療費一五万九〇八〇円、付添料四万〇八〇〇円、栄養費一万〇四一四円、入院雑費四万円、計二五万〇二九四円である。

(三)  右のような状態から、原告由美には将来労働能力の相当の障害、結婚の不安があり、慰藉料は一〇〇万円が相当である。

五  原告登の損害

(一)  同被告は事故後直ちに石川病院に入院し六月二日まで五九日間入院していたが、今日なお引続き通院治療中である。脳圧一八〇、重症の頭部外傷左橈骨々折により現在は左後頭神経痛、左腕痛、左手腕外傷性関節炎および左下腿痛、左足外傷性関節炎等があり、さらに両眼の調節作用衰弱し、視力が低下している。

(二)  右傷害治療のため必要とした費用は、被告赤木の負担したもののほか、栄養費六万円、入院雑費四万円、通院交通費三万円、合計一三万円である。

(三)  原告登は訴外東拓建設工業株式会社に勤務していたが、昭和三九年三月八日業務上負傷し、昭和四三年三月七日より昭和四四年四月四日まで労災保険より一日当り七六〇円三六銭、右訴外会社より補償差額一日当り四三六円五〇銭計一一九六円八六銭の休業補償を受けていたが、同年四月五日より本件事故により被告らから損害補償がされるものとして、支給を一時停止された。

右労災保険給付日額の計算は次のとおりである。業務上負傷当時の原告登の右訴外会社における日当は一六〇〇円であつたが、労働基準監督署への申請の際誤つて一四〇〇円としたため、日雇の場合の給付算出率七三パーセントと労災給付率六〇パーセントを乗じ、さらにこれに賃金上昇率一二四パーセントを乗じたものである。そして、右訴外会社は日当を一六〇〇円としてその六〇パーセントを算出し、これに賃金上昇率一一四・八パーセントを乗じた金額を補償する趣旨でその差額四三六円五〇銭を支給していたものである。

したがつて、同原告の本件事故当時の収益基準は、右業務上負傷当時の日当一六〇〇円に賃金上昇率一二四パーセントを乗じた一九八四円を下らないものというべきである。

(四)  同原告は昭和四四年四月五日以来同年一二月四日までの八か月間、毎月右収益を失つたものであり、一か月二五日の稼動として四万九六〇〇円、八か月で三九万六八〇〇円を失つた。

右のことはなお三年間継続する見込であるので、その間の喪失額は中間利息を控除し一六六万〇四九三円となる。

49,600×33.4777=1,660,493

さらに、右三年後においても完全な回復は望めず、自賠法施行令別表九級程度の後遺症が残り、すくなくとも更に一〇年間は継続すると認められるから、労働能力喪失率を三五パーセントとみてこの間の喪失額は中間利息を控除して一五〇万一八四一円となる。

49,600×0.35×(119.9893-33.4777)=1,501,841

以上逸失利益の合計は三五五万八一三四円となる。

(五)  原告登自身の右のような長期の治療や後遺症のほか、原告由美についての苦慮を参酌すると、その慰藉料は一五〇万円とみるのが相当である。

(六)  被告らに誠意がないので、原告らは弁護士に訴訟追行を委任し本訴を提起したが、既に着手金一〇万円を支払つたほか、報酬として五五万円を支払う約束をしており、弁護士費用計六五万円を要する。

六  原告美佐江の損害

(一)  原告美佐江は夫および長女の入院により五九日間付添看護したほか、退院後も看護をつづけ、当時勤務していた訴外日成建設株式会社を二か月以上欠勤し、一か月三万六五〇〇円の給与二か月分七万三〇〇〇円を失つた。

(二)  さらに、生計の資を得なければならぬ窮境においやられたこと、原告由美について将来の不安があることを考慮すると、原告美佐江に対する慰藉料は五〇万円とみるのが相当である。

七  よつて被告らは原告らの被つた損害を各自支払うべき義務があるところ、原告由美の損害から自賠責保険よりの給付金を差引いた八〇万円、原告登の損害から自賠責保険よりの給付金を差引いた四九五万円、原告美佐江の損害から自賠責保険よりの給付金を差引いた四〇万円ならびに右各金員に対する本件事故の翌日である昭和四四年四月六日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴請求に及ぶ。

八  免責の抗弁および過失相殺の抗弁は否認する。〔証拠関係略〕

被告赤木訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因一のうち交通事故の発生は認める。

二  同二は争う。

原告登、同由美は当時道路中央部に停立していたが、折柄加害車に対向してくる自動車が前照灯な下向きにしないまま進行してきたため被告赤木は停立中の原告等を認めることができなかつたものである。

三  同三以下はすべて争う。〔証拠関係略〕

被告定森モーター訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因一のうち、原告らの身分関係および原告ら主張の日時場所において主張の交通事故が発生し、原告由美および原告登が負傷した事実は認めるがその余は争う。

二  同二は争う。

三  同三について次のように主張する。

被告定森モーターは被告広島日産のサブデイーラーではなく同業者であり、加害車の販売委託を受けたのでなく、昭和四四年四月二日代金二六万円で買受けたものであり、一方被告赤木に対しては昭和四四年四月三日代金三五万円で売渡し引渡しを了していたものである。すなわち、被告定森モーターが加害車の運行利益および運行支配を喪失した後本件事故が発生したもので、被告定森に損害賠償責任はない。

四  同四以下は争う。

五  かりに、被告定森モーターが加害車の保有者であつたとしても、同被告および運転者赤木はその運行に関し注意を怠らなかつたし、原告らには横断歩道があるにもかかわらず、深夜信号機が作動しない交差点の暗い横断歩道外を左右確認することなく歩行していたという過失があり、加害車には構造上の欠陥または機能の障害はなかつたから、自賠法三条但書により免責さるべきである。

六  かりに免責されないとしても、原告らに過失があるから過失相殺を主張する。〔証拠関係略〕

被告広島日産訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因一、二項は知らない。

二  同三につき被告広島日産が加害者の保有者であることは否認する。被告広島日産は被告定森モーターに対し昭和四四年四月一日加害車を代金二六万円で売渡したものであつて販売委託したものではない。なお、被告定森モーターも被告赤木に売渡していたものであつて決して試用させていたのではない。

三  同四項以下は知らない。〔証拠関係略〕

被告坂本訴訟代理人は「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因一、二項は知らない。

二  同三につき、被告坂本が加害車の保有者であることを否認する。

三  同四項以下は知らない。

立証関係は被告広島日産と同じである。

理由

一  〔証拠略〕を総合すると、請求原因一、二(原告登らは横断歩道上を通行中、現場を南進する自動車があつたので停立してこれをやり過ごした直後、北進する加害車に衝突されたもので、被告赤木において対向車の前照灯に目がくらんだのであれば、直ちに停止、徐行などの措置を採るべきなのに、時速五〇ないし五五キロメートルのままで疾走し事故を惹起したものであつて、被告赤木の一方的過失によるものである)を認めることができ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は前掲その余の証拠と対比し信用できない。

二  〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

加害車はもと訴外トヨタパブリカ広島株式会社の所有であつたが、被告坂本が所有権留保付割賦弁済の方法で買受けた。しかし同被告は被告広島日産から新車を買受けるに当り加害車を下取り車として被告広島日産に売つた。その際訴外トヨタパブリカに対する残代金も清算され、自動車登録は昭和四四年四月一一日付で訴外トヨタパブリカから訴外トヨタカローラ広島株式会社に、更に同日付で右後者から直接被告広島日産に対しなされている。

被告赤木は被告定森モーターから中古自動車を購入したいと考え、昭和四四年三月末日頃同被告に注文した。そこで、被告定森モーターは同年四月始めころ被告広島日産に対し被告赤木に販売するのに適当な車はないかと交渉し、右の如く被告広島日産が買受けていた加害車の交付を受けた。そして、被告定森モーターはその頃被告赤木に対し加害車の購入方をすすめたところ、被告赤木は数日間試乗したうえで買受けるかどうかを決めたいというので、被告定森モーターはこれを許し加害車を引渡した。被告赤木は右借受期間中である同年四月五日これを運転して本件事故を起した。被告赤木と被告定森モーターの間において、同年四月一一日正式に代金三五万円として加害車の売買契約が締結され、下取車が五万円と見積つて引渡され、残代金三〇万円は同年四月、五月、六月の各月末に一〇万円づつ支払つて完済された。その後自動車検査証名義や使用者届出名義は被告赤木に変更されたが、所有者登録名義は前記の如く四月一一日に被告広島日産に変更されたままで、その後の変更はない。

右によると、本件事故当時被告坂本においては加害車を被告広島日産に売却した後であるから、加害車の保有者であるということはできない。しかし被告広島日産は加害車を所有し被告定森モーターに対し販売のためこれを寄託中であつたものであり、被告定森モーターは販売のため寄託を受けてこれを被告赤木に試乗させていたのであるから、被告広島日産と被告定森モーターは共同保有者の関係にあるということができる。

〔証拠略〕中には、被告広島日産より被告定森モーターに対し、加害車を引渡した同年四月始めこれを代金二六万円で売却済みであるとの趣旨が存する。しかし、被告広島日産においては自動車の売買に当つては契約書を作成するのが普通であるというのに、本件ではこれが作成されておらないし、正式に売買がなされたのなら当日付けの売上伝票その他の帳簿記入がある筈なのに本訴においてこれを証拠として提出しないところをみると、未だ正式に売買をしていなかつたとみるのが相当である。(需要家の個別的注文に応じ小売業者が卸売業者から中古自動車を買受けるについては、むしろ需要家が確定的に買受けの決意をした後に正式契約をするのが合理的であろう。)。その他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  そうすると、被告赤木は不法行為者として、被告広島日産および被告定森モーターは運行供用者として自賠法三条により、各自原告らが被つた損害を賠償すべきである。前認定のとおり本件事故は被告赤木の一方的過失によつて発生したものであるから、被告定森モーターの免責の抗弁および過失相殺の抗弁は採用できない。

四  〔証拠略〕によると、請求原因四(一)の事実(但し、現在の段階では「将来結婚するのもおぼつかない」とまではいえない。)および本件事故のため原告由美が視力を或程度失つたことが認められ、これに反する証拠はない。

そして、右証拠により、入院期間五一日につき病状のうえから付添を要したことおよび原告美佐江が付添つたことが認められるところ、その費用は一日一二〇〇円とみるのが相当であるが、うち八〇〇円については補填されていることが〔証拠略〕によつて認められるので、一日四〇〇円として計二万〇四〇〇円である。また、その間栄養費などを含め一日三〇〇円の雑費を要したことが認められるのでその計は一万五三〇〇円である。

なお、右各認定事実を総合すると、原告由美の長期の入通院や後遺症並びに将来の生活不安(受傷の個所が女性の生理に関係がある。)を慰藉するには相当の金額が必要であるところ、〔証拠略〕によると自賠責保険より後遺症に対する慰藉料として三一万円の支払いがあつたことが認められるので、これを差引いて五〇万円とみるのが相当である。

原告由美についての請求中その余の部分についてはこれを肯認するに足る証拠がない(〔証拠略〕によると、治療費は自賠責保険より支払われていることが認められる。)。

したがつて原告由美の損害は合計五三万五七〇〇円ということができる。

五  〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

原告登は本件事故後直ちに広島市石川病院に入院し昭和四四年六月二日まで五九日間入院した。医師石川八郎から同年八月一八日「頭部左上肢、腰部、左大腿膝足関節部外傷、顔面挫創及掻過傷、左橈骨々折左大腿骨亀裂骨折」「脳震盪頭痛、脳圧一八〇、重症の頭部外傷左橈骨々折ありて現在は左後頭神経痛と左腕痛左手腕外傷性関節炎及左下腿痛、左足外傷性関節炎あり。」との診断を受け、同年一一月一〇日、同じ病名で「頸部の神経症状強く、後頭部、両肩胛に疼痛波及両肩胛こる感強い。雨天の時は特に増悪して嘔吐をともなう。左前膊は手腕関節運動時疼痛ありて手指運動時つれる感強い。常時腰痛ありて左下肢全体に及ぶ。左下腿には軽度の麻痺ありて歩行時びつこし、長時間歩行不能なり。」との診断を受けている。一方、昭和四五年一〇月六日広島県立病院医師石川文彦から本件事故による傷害につき、同日治癒とし、後遺証内容として「(1)レントゲン線上頸椎O3―O4に外傷に起因すると考えられる骨変形を認め、頑固な局所神経症状を残す。(2)レントゲン線上、尺骨に軽度変形を残す。(3)腰部に軽度の神経痛症状を残す。」と診断し、労災保険法別表一二級該当と認定している。なお、原告登は右事故のため両眼の調節作用が衰弱し、視力が低下している。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

右証拠および認定事実によれば、原告登が入院した五九日間のうち四二日については付添を必要として付添人を雇つたことが認められるので、一日一二〇〇円の割による費用として計五万〇四〇〇円を要したこと、また右五九日間一日三〇〇円の雑費(栄養費等も含む)計一万七七〇〇円を要したことが認められる。

〔証拠略〕を総合すると、請求原因五(三)(但し、本件事故により、従前の労災事故についての労災保険休業補償給付が停止されたのでなく、当事者において右請求を停止したのである。)のほか、次の事実が認められる。

原告登は昭和三九年三月八日訴外東拓建設工業株式会社に日給一六〇〇円で働くことになつたが、翌日九日には鉄骨をデレツキで吊り下ろすという業務に従事中、鉄骨で腰を強打して「腰部打撲症および二、三、四腰椎横突起骨折」の傷害を受け、その後一旦治癒したが昭和四三年三月七日に再発し、前記の如く、同日より昭和四四年四月四日まで休業補償の給付を受けた(原告は労災保険の関係では「日日雇い入れられる者」として扱われている。)。そして、昭和四五年一月二一日治癒となり、障害が残つていたのでその等級一四級と認定されたが、原告登がこれを不服として審査官に対し審査請求をなした結果障害等級一一級と決定された。そして、障害補償金を当初一四級として五万一〇〇〇円、後に(昭和四五年六月)一一級として差額一五万三三〇〇円の支給を受けた。

右の如く、原告登は労災事故による傷害が昭和四三年三月再発し、昭和四五年一月に治癒として障害等級一一級の認定を受けているのであるから、その治癒前である本件事故当時もすくなくとも労働能力の約二〇パーセントを既に失つていたということができ、労働能力の喪失全部を本件事故に帰因させることはできない。もつとも労災事故による労働能力の喪失は数年ならずして消失することも考えられるが、他方、本件事故による後遺症とみられているものの中に(腰部神経痛)労災事故による後遺症ではないかと疑わせるものもある。また、原告登は本人尋問の結果において、本件事故による後遺症のため現在に至るも全く働くことができず、現に働いていないと述べるが、本件事故の後遺症につき障害等級一二級である旨の診断も存するのであつて、働く意欲の問題が相当関係していると考えられる。

かような点を総合して考えると、原告登が本件事故により喪失した労働能力は本件事故当日より一年間は八〇パーセント、その後二年間は五〇パーセント、その後五年間は一五パーセントとみるのが相当である。

さきにこれを肯認した請求原因四(三)の事実から、原告登の本件事故当時の収入基準はすくなくとも一日当り一九八四円、一か月二五日程度稼動するとして、一か月五万円、一か年六〇万円であるということができる。

よつて原告登の逸失利益の現価は一三三万七八九八円である。

600,000×0.8×0.9523=457,104

600,000×0.5×(2.7310-0.9523)=533,610

600,000×0.15×(6.5886-2.7310)=347,7184

計 1,337,898

原告登が長期の治療を余儀なくされ、現在なお頑固な神経症状に悩されていることおよび将来に対する生活不安があることは前記のとおりであり、他方被告赤木が生活補助としてかなりの金額を支払つた事情もあるので、かような点を総合し、原告登に対する慰藉料は一二〇万円が相当であると認める(原告由美の傷害は近親者の慰藉料を認める程度に重大であるとは考えないので、この点は慰藉料の内容としない。)。

原告らは弁護士に本訴追行を委任しているところ、原告登が支払いを約した弁護士報酬のうち三〇万円が本件事故と相当因果関係があると認める。

以上の次第で、原告登の損害合計は二九〇万五九九八円である。

六  原告美佐江が原告由美の入院した五一日間付添つたことはさきに認定したとおりであるが、右は原告由美の関係において費用として認容したのであるから、重ねて原告美佐江に対する逸失利益として認容することはできず、その後に看護のため当時勤務していた職場を欠勤したとしても、本件事故と相当因果関係があるとの心証を採り難い。

原告由美の本件事故による傷害は近親者が慰藉料を請求し得る程重大であるとは認め難いので、原告美佐江のこの点の請求も理由がないといわざるを得ない。

七  以上の次第で、原告由美の被告赤木、同定森モーター、同広島日産に対する請求は、うち五三万五七〇〇円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四四年四月六日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるのでこれを認容するが、その余は理由がないので棄却することとし、原告登の被告赤木、同定森モーター、同広島日産に対する請求は、うち二九〇万五九九八円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四四年四月六日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるのでこれを認容するが、その余は理由がないので棄却することとし、原告由美同登の被告坂本に対する請求は理由がないので棄却し、原告美佐江の請求はすべて理由がないので棄却することとし、民訴法第八九条第九二条第九三条第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹村寿)

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